大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成2年(ネ)891号 判決 1991年5月09日

控訴人

日本オフィスビル株式会社

右代表者代表取締役

中村哲也

右訴訟代理人弁護士

北河隆之

被控訴人

東都建物株式会社

右代表者代表取締役

黒光優

被控訴人

黒光優

被控訴人ら訴訟代理人弁護士

白石光征

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して四三五〇万円及びこれに対する昭和六三年二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 控訴人は、不動産の売買、賃貸、仲介及び管理等を目的とする会社である。

(二) 被控訴人東都建物株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は、不動産の売買、賃貸借並びにその仲介業等を目的とする会社であり、被控訴人黒光優は、被控訴人会社の代表取締役である。

2  本件土地の売買

(一) 別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)は、株式会社大内商事(以下「大内商事」という。)が所有していたが、大内商事は、昭和六二年一〇月五日、府中不動産株式会社(以下「府中不動産」という。)に対し、本件土地を売り渡し、控訴人は、昭和六二年一〇月八日、府中不動産から、本件土地を代金三億〇二五〇万円(坪単価二五〇万円)で買い受け、同日手付金三〇〇〇万円を支払い、同月二〇日残金二億七二五〇万円を支払った。

(二) 控訴人は、本件土地を代金四億二三五〇万円(坪単価三五〇万円)で売り出したところ、昭和六二年一〇月九日、株式会社東洋エステート(以下「東洋エステート」という。)から、本件土地を右価格で買い受けたい旨の買付依頼書が提出された。

(三) 他方、大内商事は、住宅産建こと宍戸英昭に対し、口頭で、本件土地を代金二億八〇〇〇万円(坪単価二三一万円)以上で買主を捜すよう依頼し(本件土地が売りに出ている旨の情報を以下「本件情報」という。)、宍戸は、株式会社ロイヤルホーム吉祥寺店(以下「ロイヤルホーム」という。)の堀川博寿に本件情報を伝え、堀川は、更に被控訴人会社に本件情報を伝えた。

(四) 被控訴人会社は、昭和六二年一〇月一四日に株式会社リクルート(以下「リクルート」という。)から発行された不動産売買等の一般情報誌である「週刊住宅情報」同月二一日号に、被控訴人会社の仲介物件として、本件土地が代金三億八〇〇〇万円(坪単価三一四万円)で売りに出ている旨掲載した。

(五) 東洋エステートは、右週刊住宅情報を見て、同一物件を二重価格で売り出しているとして控訴人に対し不信を抱き、前記(二)の買付依頼の意思表示を撤回した。不動産の流通価格は不安定であり、一度値崩れ現象をおこすと、当初の売出し価格で売却することは不可能となる。

3  被控訴人らの責任

(一) 被控訴人会社は、本件情報がいわゆる「業販」すなわち業者間の個人的なルートを通じて情報を伝達することによって買い手を捜すものであり、一般の不動産情報誌に本件情報を掲載して公開することを予定していないものであることを知りながら、あるいは当然これを知り得たにもかかわらず、かつ、不動産情報誌に掲載するときは、少なくとも当該物件の所有者又は元付業者に物件確認と掲載承諾を得るべき注意義務がある(「週刊住宅情報不動産情報掲載基準」参照)にもかかわらず、本件土地の所有者である大内商事及び元付業者である宍戸に対して、本件情報の確認と掲載承諾を求めることなく、前記のとおり、本件情報を週刊住宅情報に掲載し、その結果、東洋エステートからの買付依頼による売却予定価格四億二三五〇万円で本件土地を売却することを不可能にし、控訴人に対し、右売却予定額と週刊住宅情報に掲載された売却額三億八〇〇〇万円との差額四三五〇万円の得べかりし利益を失う損害を被らせた。

したがって、被控訴人会社は、民法七〇九条により、右損害を賠償する責任がある。

(二) 被控訴人黒光優は、被控訴人会社の取締役として、被控訴人会社が右(一)の不法行為をするにつき、悪意又は重大な過失があったから、商法二六六条の三第一項により、右損害を賠償する責任がある。

4  よって、控訴人は、被控訴人両名に対し、連帯して、損害金四三五〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六三年二月九日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1(一)及び(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、大内商事が本件土地を所有していたことは認め、その余の事実は不知。

同2(二)の事実は不知。

同2(三)の事実は認める。

ただし、被控訴人会社は、ロイヤルホームの堀川から本件土地を坪単価三一四万円で売却することを依頼された。

同2(四)の事実は認める。

同2(五)は争う。

3  同3(一)及び(二)は争う。

本件情報がいわゆる業販によるものであることは、宍戸の主観的意図はともかく、客観的に明らかとはいえない。

広告掲載について許可を得る必要がないことは、業界の通念である。所有者にとっては、業販以外のルートで買主を捜してきても、価格等の条件が折り合えば契約を結べばよいのであり、買主の捜し方に文句を言う筋合ではない。業販の場合であると一般公開の広告による場合とで違いはない。広告の内容、とくに売買代金が所有者の意思に合致した真実なものであるか否かが問題になるだけである。そして、被控訴人会社は、週刊住宅情報の原稿を作成する前に本件土地の存在と売買代金を確認している。また、被控訴人会社が右原稿をリクルートに送ったのは昭和六二年一〇月五日のことであり、控訴人が本件土地を買い受ける前であるから、控訴人に損害が発生することは予見できない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1(一)及び(二)の事実は当事者間に争いがない。

二請求原因2(一)の事実のうち、大内商事が本件土地を所有していたこと、請求原因2(三)及び(四)の事実は当事者間に争いがない。右争いがない事実に、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

1  大内商事は、昭和六一年一二月二二日ころ、本件土地を含む約三〇〇〇平方メートルの一団の土地を買い受け、これを数区画に分けて整地し、その販売の仲介を従前から取引のあった地元の不動産業者である住宅産建こと宍戸英昭に依頼した。右依頼に当たっては、販売価格を坪単価二八〇万円とすることが指示されたが、中間業者を利用したり、情報を広告したりすることについて格別の指示はされなかった。

宍戸は、昭和六二年八月ころ、ロイヤルホームの堀川博寿に右売買情報を伝え、本件土地については代金二億八〇〇〇万円(坪単価約二三一万円)以上で売却してほしい旨仲介を依頼した。宍戸としては、本件情報を一般広告によって公開する考えはなく、知り合いの業者間のルートでの情報伝達により買主を捜すいわゆる業販を予定していたが、堀川にはその点を何も説明しなかった。

右依頼を受けたロイヤルホームの堀川は、まず本件土地の隣接区画の販売に尽力したところ、坪単価三一四万円の売り値で買受希望者が現れた。そこで、堀川は、本件土地についても坪単価三一四万円であれば売れるものと考えた。

2  被控訴人会社は、昭和六二年九月下旬ころ、本件土地付近の土地の購入を希望する客がいたので、ロイヤルホームに適当な物件の紹介を依頼した。ロイヤルホームの堀川は、本件土地が坪単価三一四万円で売りに出ている旨を伝え、その価格での売買の仲介を被控訴人会社に依頼した。しかし、被控訴人会社が予定した客との売買は結局成立しなかった。

被控訴人会社は、本件土地の売主が大内商事であることを知らされ、本件土地売買の情報が信頼できると判断し、本件情報をリクルートが発行する週刊住宅情報に掲載して広く買い手を捜したいと考えた。そこで、被控訴人会社は、同年一〇月五日にロイヤルホームの堀川に対して、本件土地がまだ売れていないか、売買単価は坪当たり三一四万円でよいかを確認したうえ、同日、リクルートに対し、売買代金三億八〇〇〇万円(坪単価三一四万円)で本件土地の売買を仲介する旨の週刊住宅情報掲載の原稿を送付した。

リクルートが定めている週刊住宅情報の不動産情報掲載基準には、掲載物件に関する基準として「原則として取引態様が「売主」、「貸主」または「代理」のもの、または「媒介(仲介)」であって直接売主・貸主から依頼されているものとします。直接依頼を受けていないもの(いわゆる先物)については、必ず元付会社に物件確認と掲載承諾を得ることとします。」とされているが、被控訴人会社は、本件情報を週刊住宅情報に掲載することについて、大内商事や宍戸、更にはロイヤルホームの堀川に事前に連絡したり、その承諾を求めたりはしなかった。しかし、逆に同人らから、本件物件がいわゆる業販を予定したものであるとか、本件情報を一般の不動産情報誌に掲載してはならないなどといった格別の指示・制限を受けていたわけでもなかった。

被控訴人会社では、それまでも、毎週送られてくる仲介物件のちらしや、毎日二〇件ないし五〇件ほど入ってくる他の業者からの不動産仲介情報の中から、適当と思われる物件を選び、一回につき一〇件前後、月に三〇件程度の物件を週刊住宅情報に掲載していたが、右掲載に際しては、情報提供先の不動産業者に対し、当該物件が売れていないかどうかを必ず確認するほか、不明な点があれば問い合わせをすることにしていたものの、ちらしに広告不可との記載や他の業者に紹介してはならない旨の指示がない限り、掲載についてあらかじめ承諾を得ることはしていなかった。本件情報の掲載もこの例にならったものである。

被控訴人の送付した右原稿に基づき、同年一〇月一四日に発売された週刊住宅情報一〇月二一日号の中央線・中央本線・武蔵野線沿線売却物件欄に、本件土地を売買価格三億八〇〇〇万円で被控訴人会社が仲介する旨の情報が掲載された。

3  他方、大内商事は、昭和六二年八月ころ、府中不動産に対しても、本件土地売買の仲介を依頼していた。右売買の話は、府中不動産から有限会社ビー・エル・エルを通じて控訴人に持ち込まれ、売買代金は、坪単価二五〇万円ということであった。

控訴人は、本件土地を取得して転売することを考え、同年九月、右価格で買い取る話を進める一方で、東洋エステートに対し、本件土地を坪当たり一〇〇万円を上乗せした坪単価三五〇万円で売りたい旨申し込んだ。同年一〇月五日、本件土地は、いったん大内商事から府中不動産に売り渡されたうえ、同月八日、府中不動産と控訴人との間において、本件土地を売買代金三億〇二五〇万円(坪単価二五〇万円)で控訴人が買い受ける旨の売買契約が締結され、控訴人は府中不動産に対し、同日、手付金三〇〇〇万円を支払い、残金二億七二五〇万円は同月二〇日に支払う旨約した。

また、東洋エステートは、同年九月下旬ころ、八千代信用金庫から、本件土地を坪単価三五〇万円と評価し、売買代金の融資をすることの内諾を得たので、控訴人から本件土地を買い受けることにし、同年一〇月九日には、控訴人に対し、本件土地を売買代金四億二三五〇万円(坪単価三五〇万円)で買い受けたい、契約希望日は同月一六日とする旨の買付証明書を発行した。

ところが、同年一〇月一四日に前記週刊住宅情報が発売され、坪単価三一四万円とする本件情報が掲載されているのを見た八千代信用金庫は、本件土地を坪単価三五〇万円と評価して融資することに難色を示した。このため、東洋エステートは、本件土地の買受けを断念し、控訴人に断わった。

控訴人は、昭和六三年三月三一日、松木俊一に対し、本件土地を売買代金三億八三五七万円(坪単価三一七万円)で転売した。

三右認定の事実によれば、控訴人は、本件土地を坪単価三五〇万円で転売する見込みがあったところ、週刊住宅情報に坪単価を三一四万円とする本件情報が掲載されたことによって右転売が不可能になったものであると一応いうことができる。

そこで、被控訴人会社が右の本件情報を掲載したことについて控訴人に対して不法行為責任を負うか否かを次に判断する。

1 不動産仲介契約においては、特段の合意がない限り、仲介業者は、依頼者の承諾を得ることなく中間業者を利用するなど適宜の方法によって広く契約の相手方を捜すことができ、契約が成立したときにのみ報酬を請求できるものであり、契約の相手方を捜すのに費用を要してもその償還請求権を有しない。他方、依頼者も、仲介業者がどのような方法で契約の相手方を捜してきても、その相手方と契約を締結するか否かの自由をもち、契約の締結を強制されることはなく、仲介契約を自由に解除することができるのが原則である。このことから考えれば、仲介の依頼を受けた仲介業者は、依頼者から契約の相手方を捜す方法について指定され、又は一般広告を禁止する旨の意思を伝えられたとか、依頼の趣旨、内容その他の具体的状況からして一般広告をすることが依頼者の意思に反するおそれが客観的にあるといった特段の事情がないときは、仲介物件に関する情報を一般需要者向けの不動産情報誌に掲載するなど適宜の広告方法を用いて広く顧客を捜すことが許されると解するのが相当である。

2  控訴人は、本件情報が一般公開を予定しないいわゆる業販扱いのものであり、被控訴人会社は、そのことを知りながら、又はこれを知ることができたにもかかわらず、あえて本件情報を一般の不動産情報誌に掲載したものである旨主張する。

<証拠>及び弁論の全趣旨によれば、不動産仲介業者の業界においては、大きな物件又は高額な物件等に関する情報を広く一般公開すると、取引関係のない業者に抜け駆けされたりすることがあるので、それを避けたいときに、当該情報を取引関係のある業者間だけで伝達することにより有利な価格で買い手を捜すという方法がとられることがあり、これを業販と呼んでいることが認められるが、どのような場合又はどのような物件について業販が行われるかについては確たるものがなく(個別に指示される場合のほか、業者間で回されるチラシや情報誌に広告不可の旨が記載されている場合がある。)、また、業販を行うのが業界の慣行といえるまでになっていると認めるに足りる証拠はない。

ところで、前記認定の事実によれば、売り主の大内商事から仲介を依頼された元付業者である宍戸は、本件情報を一般に公開するつもりはなく、業販による方法で仲介する意図であったが、ロイヤルホームの堀川に本件情報を伝達するに当たってはその旨の説明、指示はしていないし、また、堀川から被控訴人会社に対しても、本件情報が業販扱いであるとか、一般広告が許されていないとかの説明、指示はなかったものである。堀川が被控訴人会社に本件情報を伝えて仲介を依頼したのは、被控訴人会社の方に購入を希望する客がいたことによるものであり、その時点では、ロイヤルホームも被控訴人会社も、本件情報を一般の住宅情報誌に掲載することは考えていなかったことが明らかであるけれども、さりとて、被控訴人会社が広告によって他の買い手を捜すことは許さないという制限が黙示的に付された情報伝達であったとは認められない。

また、<証拠>によれば、週刊住宅情報には、本件土地より面積が大きくあるいは価格や単価が高い物件の仲介情報も掲載されていることが認められるから、本件土地の面積及び価格の点から、一般公開の禁止された情報であることが業者にとって明らかであったということはできない。

控訴人は、売り主である大内商事及び元付業者である宍戸が本件土地の販売価格を二億八〇〇〇万円以上として仲介を依頼し、販売価格を特定していないのは、一般広告を予定せず業販による仲介を予定していたからであると主張するが、業販によるにせよ一般広告によるにせよ、二億八〇〇〇万円以上で複数の価格がつく可能性があることに変わりはなく、その場合に業販であれば価格の調整をしやすいことがありうるにしても、右のような販売価格の定め方による仲介依頼が当然に業販を予定した趣旨であると解すべき十分な理由は見いだせない。本件事案に即してみても、大内商事としては、本件土地が二億八〇〇〇万円以上で販売できるのであれば、仲介方法のいかんによってその利益を具体的に害されるおそれがあったとは認められないのであり、控訴人のいう一般広告による値崩れなるものは、大内商事から本件土地を買い受けて二億八〇〇〇万円よりはるかに高額で転売しようとした控訴人の利害の観点からの見方にすぎない。大内商事又は宍戸が右のような爾後の買受人の利害のために本件情報を業販扱いにしたものと認めるべき証拠はない。

右に検討したところによれば、宍戸が本件土地を業販による方法で仲介する意図であったことは認められるものの、ロイヤルホームの堀川を経て、被控訴人会社に対し、その趣旨すなわち一般広告禁止の旨が伝えられて被控訴人会社がこれを知っていたとは認められず、また、本件情報が業販扱いであることが客観的に明らかで、被控訴人会社においてこれを知り得たと認めるにはなお十分でないといわざるを得ない。

3  次に、控訴人は、被控訴人会社が本件情報を不動産情報誌に掲載するに際しては、右掲載依頼の当時の本件土地の所有者大内商事又は元付業者宍戸の承諾を得るべきであったと主張する。

しかし、前記の説示及び認定の事実関係に照らせば、本件情報につき一般広告を禁止する旨の大内商事又は宍戸の意思が被控訴人会社に伝えられたことはなく、また、本件情報を一般広告に出すことによって大内商事の利益が害されるおそれが客観的にあったとの特段の事情は認められないのであるから、被控訴人会社において、本件情報を週刊住宅情報に掲載することについて大内商事又は宍戸の承諾を得るべき義務があったと解することはできない。原審証人大内は、元付業者以外の業者が不動産情報誌に情報を掲載するときは依頼者の承諾を得るのが業界の慣行であるかのごとくに供述し、控訴人代表者も同趣旨の供述をしているが、他方、原審証人堀川は、週刊住宅情報に掲載するについて、特に広告が不許になっていない限り、いちいち承諾を求めていないのがほとんどの業者である旨供述し、原審証人白桃及び被控訴人会社代表者兼被控訴人本人黒光も同趣旨の供述をしているのであって、複雑な業界の実情は的確に把握しがたく、少なくとも原審証人大内及び控訴人代表者の右供述のみをもって、前記のような特段の事情がない場合でもなお一般的に依頼者から掲載の承諾を得るのが業界の慣行であったと認めることはできないというほかない。

週刊住宅情報の不動産情報掲載基準では、「直接依頼を受けていないものについては必ず元付会社の掲載承諾を得ること」となっているが、<証拠>に記載されている右掲載基準制定の趣旨、目的から考えると、右掲載基準は、主として読者に対して正しい情報を伝え、これを利用した者の利益を損なうことがないようにするために定められたものであって、掲載依頼者が対リクルートとの関係において遵守を求められる準則であり、これを根拠として直ちに、掲載依頼者が所有者又は元付業者に対しても常に同様の義務を負っていると解することは当を得たものとはいいがたい(もとより、右承諾を得た上で掲載することが望ましいことはいうまでもない。)。

更に、控訴人は、本件情報を不動産情報誌に掲載するに際し、大内商事又は宍戸に物件確認をすべきであった旨主張する。

前記認定の事実関係によれば、被控訴人会社が本件情報の掲載原稿をリクルートに送った昭和六二年一〇月五日は、大内商事から府中不動産に本件不動産が売却された当日であり、控訴人の府中不動産からの買受け及び東洋エステートへの転売の話も具体化していたと認められるので、右の掲載原稿の送付に先立ち、被控訴人会社が直接大内商事又は宍戸に対して十分な物件確認を行っていたならば、右に述べた取引状況を知り得た可能性は否定できない。

しかし、本件は、一個の売買に複数の不動産業者が順次関与するいわゆる共同仲介の事案であって、このような場合に物件確認をすべき業者としては、まず、情報を提供してくれた中間の業者に物件確認をし、もしそれによって十分な確認を得られないとか、あるいはなお不審、不明な点があるといった事情があるときに、更に直接所有者又は元付業者に対して確認をすれば一応は足りると解すべきである。そして、前記認定の事実関係によれば、被控訴人会社は、リクルートに掲載原稿を送るに当たり、その当日、本件情報を提供してくれた中間業者であるロイヤルホームの堀川に対し、本件土地が売れていないか、売買代金額は坪単価三一四万円でよいかを確認しているのであり、これに対する堀川からの回答に不十分又は不審、不明な点があったとも認められないのであるから、被控訴人会社は、必要とされる一応の確認義務を尽くしているということができる。

前記不動産情報掲載基準には、「直接依頼を受けていないものについては必ず元付会社の物件確認を得ること」とされているが、これをもって、所有者又は元付業者に対する直接の確認義務を認める根拠とすることができないことは、先に判示したところと同様である。

4 以上のとおりであって、被控訴人会社が本件情報を週刊住宅情報誌上に掲載した行為は、事後的にみれば、必ずしも十全を尽くしたものとはいいがたいものがあるけれども、不動産仲介業者としての義務に違反したものとまでは認められず、被控訴人会社に控訴人主張のような不法行為責任があるということはできない。

四被控訴人黒光の商法二六六条の三第一項の責任

すでに判示したとおり、被控訴人会社の不法行為責任は認められないから、右責任があることを前提として被控訴人黒光に商法二六六条の三第一項の賠償責任がある旨の控訴人の主張も理由がない。

五以上の次第で、控訴人の請求は失当として棄却すべきであり、これと結論を同じくする原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤繁 裁判官岩井俊 裁判官小林正明)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例